インタビュー/農国ふくわらい|実証実験としてのCSA LOOPと今後の広がり

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CSA LOOPは、地域支援型農業と食循環を掛け合わせた新たな仕組みです。生産者と都市の消費者を結び様々な方と一緒にまち全体でひとつの循環をつくっていきます。

農家と消費者がCSAの年間契約をおこない、年間を通して地域の拠点で対面で野菜の受け渡しをします。その際、家庭でコンポストした堆肥がある場合には、農家に預け、また資源として有効活用していくことも可能です。拠点では、野菜や堆肥の受け渡しがおこなわれ、直接のコミュニケーションを通して、当事者だけでなく地域コミュニティの広がりが生まれていきます。

各コミュニティごとで農家、拠点、消費者など、関わり合う人が相互を理解し、歩み寄りながら議論をしていくことで解決に近づいていける、優しく自律したコミュニティを目指しています。

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    Yuri Utsunomiya

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    Yuri Utsunomiya

2021年の5月からは実証実験として、農国ふくわらい(千葉県山武市)さんと青山ファーマーズマーケットを受け渡しの拠点に、1年間のCSAプランを開始しました。

今回は、農国ふくわらいの髙木克弘さんと一緒に、開始からの半年間を振り返っていきます。

コミュニティの始動

高木さんはおひとりで営農されていて、すでにお忙しくされているなかで、どうしてこの取り組みに参加しようと思ったのでしょうか?

理由は大きく2つあって、ひとつは現在毎週青山ファーマーズマーケットでの出店をしているなかで感じるのが、天気やお客さんの入りで売り上げが左右される販売方法でもあるということです。そのため、シンプルにそこを前払いすることで、当日の販売分が確保されたうえで出店ができるということは、助かるなという印象がありましたね。

あとは堆肥の循環に役立つことができるのは嬉しいという感覚があります。もともと都内で作られる家庭の生ごみのコンポストの循環には、課題感として再利用や活用の手段が少ないということは知っていましたが、それを自分の経営と関連づけるところまでは考えていませんでした。

自分自身、新宿区出身で都市部での生活はわかります。生ごみを減らすことはそれぞれの家庭でできても、それを継続的に菜園などで使うというのはなかなかイメージが湧きません。とはいえ、堆肥を受け入れるという選択も大きなことなので、ボランティアでは正直難しいです。CSA LOOPであれば経営的なメリットもありながら、そうした部分にも貢献していけるのはいいなと思いました。

効率を考えると時間を取られる対面販売をあまり選択しない方もいらっしゃると思います。もともとマーケットにはご出店されていますが、そこはどのように考えていますか?

今こうして出店など対面販売でやっているのは、自分の中では野菜を生産するのと同じくらい、野菜を受け渡しする行為での人とのつながりなどの関係性も大事だと考えているからです。

これは、自分がお客さんという立場でも同じですね。この前、地元のコーヒーショップでドライブスルーをした時に、顔は見えないけど受話器越しに互いを気遣う会話があって、そのスタッフの方が次回行った時も覚えてくれているとか、結構嬉しいです(笑)そこで「注文」ということ以外にもつながりが生まれていくじゃないですか。結局は対お店ではなく対店員(個人)とのやりとりだと思うので、そのときの会話や対応などのコミュニケーションは、チェーン店のコーヒーショップとかであっても同じで、純粋にまた行きたくなります。

この仕組みに向けて準備したことはありますか?

あったといえば、堆肥の受け入れの準備ですね。実際それまでは土づくりの見本にさせていただいている師匠と一緒に堆肥を仕込んでいたという部分もあったのと、今回は初めての取り組みということもあり、CSA会員専用で小規模ながら別で分けておこなっています。そのための場所や資材等の準備はありました。

そのほかは特別な準備はあんまりなかったですね。もともと野菜セットはやっていましたし、青山ファーマーズマーケットに出店をするルーティーンがあったので、作付など生産体制の変更の必要ありませんでした。なので、あえていえば、新しくされる方々は、どこで受け渡しをするかの拠点を決めていくことかなと思います。

仕組みを超えた人と人の関係性

今年の5月からプランがスタートしました。これまでのコミュニケーションを振り返ってみていかがですか?

やっぱり人と人の付き合いだなという点ですね(笑)当初は、オンラインのコミュニケーションも、何もせずに会話は盛り上がっていくと簡単に考えていましたが、そんな甘くなかったです(笑)1人ということもあり、まだ十分な時間を作れておらずあまり活発には会話をできていないので、もっと参加していけたらと思っています。

あとは、やはり援農の際に畑でコミュニケーションを取るとすごく距離感は近づきますね。受け渡し場所は拠点によっても様々かと思いますが、マーケットで言えば当日の販売ブースになるので、じっくり会話というわけにもいかないのが正直なところです。でもその分、畑では手を動かしながら口も動かせるので、お互いのことをじっくり知ることができる機会になっていて、やはりぐんと距離も縮まります。月1回でも畑に来てくれるだけでその後のブースでの会話にも、広がりが出るというか。なので、ぜひ、畑には来て欲しいなと思いますね。

受け渡しの時には、どんな会話をされますか?

野菜の説明はしますね。あとは、会員の方から「この前こんなの作ったの」、「あれおいしかったです」みたいなお話ですね。基本自分のスタイルとしては、個別のお仕事などのお話などは自分からはお聞きしていないので、店頭での会話はシンプルですね。もちろん相手からお話があれば別ですが、CSA会員だからといって、そこを自分からどかどかいくのも違うような気がしています。

援農を実施する時に気をつけていることはありますか?

呼びかける時に、「何をやるか」を明確にしできていると、参加しやすいのかなとは思います。実際に10月とかはサツマイモの収穫時期だったりするので、「サツマイモ掘ります!」みたいなことを案内できていると、現場でのイメージ感も違うのかなと思います。もともと「次は行きたいです!」といつも言ってくれている方はいるので熱量はあると思うのですが、やることが明確なら、そこをできるだけスムーズにできるかもしれないですね。

とはいえ、イベントを作成する時は約1ヶ月前で、天気などによっても左右はするので、あくまでも予定になってしまいますが(笑)ただ、そのときにわかる範囲で伝えていくという姿勢は大事かなと思います。

髙木さんは援農の設定など、「毎月やらなきゃ!」ではなく、基本はやるとしながらも、できない時はやらないというスタンスですよね。いい意味で、振り回されないというか、自分を見失わないための工夫みたいなものはありますか?

ある程度、仕組みとしてのルールがシビアではないので、月1回を目安としながらも、必ずしも実施しなくてはいけないわけではない点はやりやすさの一つです。あとは、台風の時もマーケット自体への出店をキャンセルしたことで受け渡しができなくなってしまったことがありましたが、その変更や再調整もみなさん快く対応してくださいました。持ちつ持たれつのような関係性で、トータルでバランスが取れていることが大事なのかなと思います。そういう意味では、やっぱり、仕組みの消費者と生産者の関係性ではなく、人間と人間でつながりがあるから、尊重だったり、お互いが納得する代替案が見つけ出せたりするんだと思いますね。

この前も受け渡し予定の前日か直前で来れなかった方がいて、「配送でもいいですか」とか「来週でもいいですか」というご相談がありました。もちろん自分はそれで良くて、台風の時には皆さんに日程を変更していただいたりしているので、そこはお互い様な部分もあると思っています。そこを仕組みとして保証や補填という議論というよりは、いい意味で人間同士のつながりだと捉えて、その関係性を大事にしたいと思っています。

そのあたりの感覚は農家さんごとにも違ってくるのでしょうね。

そうですね。受け取りの日を忘れてしまったという方もいましたが、自分はそれも同様にお互い様だと考えていますね。それに、忘れてしまったことに対して、1農家の手を煩わせてしまって申し訳ないという気持ちも伝わるので、その誠意は大事にしています。今回の分はまた別で買い取りますというのも気持ち的に重いですしね(笑)

とはいえ、基本はイレギュラーがないほうが助かります。お互い人なので頻発する可能性も否定できないですが、そうなっていないのが仕組みという土台がある良さなんだと感じています。SNSのコメントのように匿名ではない顔の見える関係で、コミュニケーションが取れる距離感だからこそ、コミュニティという抑止力があるのかなと勝手に思ってはいて、その点は安心しています。

畑でのコミュニケーションのあり方

畑でのコミュニケーションがとれる機会を増やしていきたいとおっしゃっていましたが、今後畑ではどんなことが起こっていったらいいなと思いますか?

例えばお昼ご飯なら、理想はもう少し大人数受け入れられる余裕ができたときですが、5〜6人来たときにその日のお昼を作るグループと作業のグループに分かれるといったような動き方はしたいですね。また、駅からのアクセスをどうするかという問題は、畑に来てもらう時には必ずぶつかる壁ですが、それ関しては、以前の援農の際に自家用車で畑に来られた方が、他の会員の方を最寄り駅から乗せて畑に来るということが実際にありました。

そんな形で、一般的には農家が抱えがちな作業を会員の方が受け持っていく、そんな支え合い方ができる関係性を築きたいです。

そもそも、草むしりしてくれるだけで普段は一人なのですごく助かるし、話す相手がいるだけで、楽しさが全然違います。同じことしているだけでもそこに会話があるので。親密度も上がって、作業も捗るので理想ですね。そういう意味では、自分が設定した援農日でなくても、「行っていいですか?」と打診してくれるあるいか打診しやすいような関係性や空気を、時間をかけてでも作っていきたいですね。

拠点から広がる地域での広がり

現在は青山ファーマーズマーケットのほかにも、カフェやパン屋さんでも販売されていますよね。今後CSA LOOPも地域のカフェを拠点としていければと考えています。

カフェだったら、農家さんも、お客さんも含めせっかく来た際にコーヒーで一息つけたら、すごくいいんじゃないかなと思います。例えば農家だったら、フードメニューで自分の野菜が提供されていれば、自分の野菜がどうなっているか見ることができるし、自分がその食に介在しているという点でより親しみも持ちやすいと思います。あとは、農家本人がおすすめすることで、受け取りついでに、買ってみたくなるものですしね。

拠点がある地域の地元の人との関係性も生まれますね。

そうですね。文京区のパン屋さんで販売をしていたことがあるのですが、お客さんには雑誌を見て来た人や、ツウの方もいらっしゃるなかで地元のお客さんが8~9割でした。カフェもそうだと思いますがパン屋さんも地域とのつながりは強いので、多くの地元の人たちとつながれました。お客さんのなかには、今でも野菜セット買ってくださっている方もいらっしゃいます。

拠点での広がりは魅力的とはいえ、畑を離れることにもなります。農家さんにも様々な考え方があるかと思いますが、それについてはどう考えますか?

正直、効率を求めるのであれば、配送とか販売を委託したりとかがいいとは思います。ただ、拠点を離れることは可能性は無限に広がります。それこそシェフとつながって取引が増えることもありますし、フィードバックが直に届くことで、販売の意欲にもつながります。例えば、お野菜のニーズを知れたり、コミュニケーションが取れるのでよりよくしていくためのアイデアも考えやすいです。あとは、野菜を買ってくださった方がたまにお手伝いに来てくれることもまた、お客さんとのつながり方として自分にとっては嬉しいことです。

週1はあまりおすすめではないけど、2週に一度、1ヶ月に一度であれば、より多くの方の選択肢になるのではと思いますね。まあ、それぞれがどういう天秤をかけるかですね。

今後の広がりについて

都市と地域が、お野菜とコンポストを通して繋がるこの試みはとても面白く、新しい発見の連続です。 自分のお野菜が材料となったコンポストは農家として愛着が湧きますので、それを畑に還元できて、またお野菜としてお届けできるループはまさに好循環を感じています。

また、お野菜とコンポストの受け渡しといった側面だけでなく、畑で農作業を通して親睦を深めたりなど、会員同士や農家と会員間でのあたたかい交流も生まれています。人と人との繋がりを発展させる仕組みとしても今後も期待しています。