土のにおいに誘われて| 越渕農園

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今年InstagramのLIVEにて行った「土のにおいに誘われて」を再編集、新たに農場でインタビューした内容をまとめた。農家さんの素顔を知るには、畑に行くのが一番。「農業をはじめるきっかけは?」「これからしてみたいことは?」農家さんの過去と現在、これからの話を畑で聞いてみよう。

土のにおいに誘われて第6回は、“越渕農園”の越渕さんのところへ訪れ、お話を伺った。

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    Mana Hasegawa

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    Mana Hasegawa

プロフィール
越渕農園|越渕新二郎さん
千葉県柏市で少量多品目の有機野菜をつくっている。野菜を肥料で育てるのではなく、微生物やミネラルの力を借りて土を育てるように土づくりを行っている。肥料はあくまで必要な時のみ。自然の循環の中でのびのびと育った野菜は、甘みや美味しさがぎゅっとつまっている。野球が好きでジャイアンツのファン。農家になる前は旅行が趣味で、今どこかに行けるなら、四国で温泉やうどん巡りがしたいそう!

Instagram
CSA LOOP拠点:BERTH COFFEE ROASTERY Haru

平)…平間(4Nature代表)
コ)…越渕さん(越渕農園/農家)

農家になる前

北海道で過ごした4年間は大変でしたけれど、自分のやりたい農業がしっかりと確立されたので、無駄ではなかったです。ある意味、僕みたいな人間には必要だったのかも。

平)よろしくお願いいたします。では、自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか?

コ)千葉県柏市で農業をやっております、越渕農園の越渕新二郎と申します。よろしくお願いします。野菜は有機栽培でやっておりまして、CSA LOOPには去年から参加しています。メンバーの皆さん優しい方たちばかりで。野菜の準備は大変ではあるのですが、楽しんでやらせていただいてます。

平)ありがとうございます。まずは農家になる前の越渕さんについてお聞きしていきたいと思います。ご家族で農家の方はいらっしゃいましたか?

コ)いえ、周りに農家の人はいなかったですね。

平)子ども時代から自然が好きだったのでしょうか?

コ)もちろんゲームとかも大好きだったんですけど、 親に連れられて、田んぼや畑の周りでサイクリングしていた記憶がありますね。出身が千葉県柏市なのですが、自然が豊かなところも身近にありました。作業をしたことはなかったですが、幼い頃から親しみがあって、多分それが、今農家やっている原点なのかな。

まだ膨らみはじめたばかりの“スイカ”



スイカとメロンのトンネルの先には、収穫を待つスイカ達

平)自分自身が作業することはなかったけれど、農業をしてる人たちとの距離、物理的な距離が近かったのですね。

コ)そうですね。畑とか田んぼとかが割と遊び場ではありましたね。農家の方への印象は、「食べ物作ってくれている方」みたいな印象がすごくありましたね。子どもながらに、なんかいいなみたいな。
学校の授業で農業体験があって、そばを育てて、そば打ちまでやった記憶があります。他にも小学校の畑で、色々育てたことも覚えていますね。

平)自分で育てて、自分で食べてみる。いい経験ですね!では、高校・大学生時代はどう過ごされたのでしょうか?

コ)野球部だったので、野球が中心の生活でした。もうずっとスポーツ。大学でも野球を続けていました。

平)ずっと野球を続けられていたのですね!そこから大学を卒業して、どんなお仕事をされていたのですか?

コ)包装資材、プラスチックの包装資材のメーカーに入社しました。四国が本社の会社だったので、四国で3年間、メーカーの営業として働いてました。

平)資材や包装の営業職から、農業へ転身されたきっかけがすごく気になります。何かきっかけがあったのでしょうか?

コ)サラリーマンを3年間やって、営業という仕事にちょっとこう疑問じゃないですけれど…。自分が何をやりたいかを考えた時に、 農業が頭に浮かびました。最初の頃は仕事しながら、連休に長野や静岡、いろいろな農家さんのところに手伝いに行っていましたね。そのうち、どうすれば農家になれるのかな、という事を考え始めていました。そこからは、深く調べることもなく、北海道へ行けばなんとかなると思って、北海道へ行きました。

平)お手伝いしていた方の紹介とかでもなく、北海道へ行って、研修先などを探されたのですか?

コ)ちゃんとした理由がある訳ではなくて。なんか、北海道行けばなんとかなる、何かしらの農業はやっているだろうと。ネットで第一次産業専門の転職サイトのようなところで、北海道の農家のお母さんを探して、そこから採用面接をしました。

平)研修ではなく、そこの農園に就職されたのでしょうか?北海道の農園は、どのような農園だったのでしょうか?

コ)研究生として、働いていました。そこでは、麦やジャガイモ、玉ねぎ。あとは大根、キャベツなどを栽培していましたね。170町ぐらいの広い農園だったので、栽培について学ぶというよりは単純な“労働”に近かったかもしれないですね。僕以外にもたくさんの人がいたので、日々分担しながら収穫などしていました。

平)北海道だと、やっぱり土地の広さ、規模もスケールが大きくなりますね!そこでしばらく働かれたのですか?

コ)そこでは、10ヶ月くらいですね。多品目栽培に興味を持ち始めたので、同じ北海道内で多品目栽培をしている農家さんを探して、3年ほど働きました。働きながら、自分のやりたい農業はなんだろう、と模索していた感じですね。北海道でも少量多品目で、小さく農業をされている方もいたので、見学に行っていました。
そこで決めた野菜を大きく育てて卸すのではなく、好きな野菜を育てて、道の駅や個人のお客さんへ届ける、自分で販売先を選べる農業の在り方を知りました。自分がやりたかったのは、こっちだ!と思いましたね。

畑は3カ所。それぞれ土質も少しづつ異なり、野菜の育ち方も畑で変わるそう。

平)自分がやりたい農業を目指してそのやり方を学ぶのではなくて、とりあえず飛び込んでみる。その中で、自分の好みややりたい農業が明確になっていったのですね!

コ)そう。本当にそうですね。農業のことなんて何も深く考えないで、北海道へ。北海道で過ごした4年間は大変でしたけれど、自分のやりたい農業がしっかりと確立されたので、無駄ではなかったです。ある意味、僕みたいな人間には必要だったのかも。

平)その4年間を経て、小規模で自分の作りたいものをつくって、届けたい先に届けるっていう農業の在り方を見つけた。じゃあどこでやろうってなった時に、すぐに今の柏市に決められたのですか?

コ)千葉県柏市には、実家がありまして。改めて考えてみると、自然や農地もある。東京も近いし、人口も増えつつあるので、野菜の売り先もある。実はすごく条件が良い場所なんじゃないかと思いました。
調べてみると、柏市に限らず近隣には自分で開拓していくような、革新的な農業をされている方がたくさんいました。北海道に残って続ければ、と言ってくれる人もいたし、北海道も楽しかったのですが、柏市に戻ってきて、今に至りますね。

農家になった今

農業が仕事というよりは、生活の一部。生き方だと思います。狭い範囲でも、届く範囲の人たちに野菜を届ける。食べてもらって喜んでもらえれば、それで幸せだなって。

平)こちらの畑、土質などはどういう特徴があるのでしょうか?

コ)粘土質っぽい土ですね。その分栄養が豊富で、この辺りの人は枝豆やネギ、里芋をよくつくっています。水持ちも良いですし、野菜も美味しくできますね。ここで農業を始めた頃は、土質には助けられましたね。土質を改良するために、いろいろ入れることもできるけれど、やっぱり限度がある。土質はなかなか変えられない。

平)今、畑で作ってる野菜は年間何品目ぐらいですか?どういう野菜をつくっているのでしょうか?

コ)年間50品種くらいでしょうか。少量多品目でつくっています。季節ごとに、つくれそうなものにチャレンジしています。

平)野菜は有機栽培されていますが、有機、オーガニックにしたのには、どう言った理由がありますか?

コ)北海道で働いていた農園は、オーガニック栽培はしていなかったので、学んでいた訳ではないです。元々オーガニックに興味はあったのですが、こっちの柏市に戻って、オーガニックでやっていこうとは思っていなかったんです。
栽培ももちろんですが、虫や自然と一緒に野菜をつくっていく、というような考え方も含めてですね。こういうオーガニックにこだわりのある人たちって、なんかちょっととっつきづらいといいますか…。勝手な偏見もありましたね。

平)こだわりが強い考え方の方も中にはいらっしゃいますものね。

コ)そうですね。有機栽培がやりたいからやっているだけなんです。有機栽培にも、いろいろな方法がありますしね。僕は0から始めるので、わりかしやりやすかったと思います。ずっと続いている農家さんが、急に有機栽培を始める、転換していく方がよっぽど大変なんじゃないですかね。
なので、逆に何もないところから始めるのなら、有機栽培でチャレンジしてみようと思いました。やってみて本当に無理だったら農薬を使おう、と。

ナスの花。花にあるおしべとめしべで元気な株か見分けられるそう。

平)実際に有機栽培をしてみて、どうでしたか?

コ)やっていると、虫やカエル、生き物と触れ合えるのですよね。この子たちに害はない訳で、人間の都合で排除しようとするのはなんだかな、と。農薬を使いたくないって思うなら、使わないやり方でやりたいと思いますね。それで生産性が落ちることもあるけれど、あくまで自己責任。
やっぱり有機栽培は大変ではありますけれど、できたもので販売先を自分で考えればいいって。それでも出来なかったら、どこかでバイトしようぐらいに思っています。

平)必ずしも、農業だけで食べていけなくても…ということなんでしょうか?

コ)農業が仕事というよりは、生活の一部。生き方だと思います。農業ですごく稼ぎたい訳ではなくて、生きていけるくらい。自分の作った野菜を家族に食べさせてあげて、喜んでもらえれば。なんか、それで幸せだなって。
逆に効率とかを考えないで、自分の親しい人からもらえる資材で回してみる。例えば、どこかのすごい堆肥を買ってくるのではなくて、親しい人が堆肥になる資材を持っているから、その人からいただくとか。そういう人と知り合って、仲良くなって、その輪の中でも野菜は育つだろうと思っています。

無農薬・無肥料で育ったナス畑。今年はナスが豊作とのこと!


ゼブラ柄のナス。越渕さんが一番好きな野菜は“ナス”

平)何かやりたいことのために、いろんなところで買ったり持ってくるのではなく、自分のご縁の中でどうできるか、ということなんですかね。

コ)そうですね。今使っている堆肥も、マルシェでお世話になっている酵素風呂屋さんから仕入れ、畑に撒いています。微生物がたっぷりの堆肥は豊かな土づくりに欠かせない存在です。
小さいコミュニティで良いので、僕がつくった野菜を買ってくれる人から、また買いたいと思ってもらえる。小さい輪の中で循環して回っていけばいいな、と思っているので、そこに共感してCSA LOOPに参加させていただいている部分もあります。
日本だけではなくて、海外にも優れたモノはたくさんある。そういうモノを導入すれば、もっと効率的で、たくさん野菜もつくれるかもしれない。でも、そこに頼ってしまうと依存することになっちゃうのかな、って。
それだったら、頼るけど、お互い支え合える。小さなコミュニティの中でも野菜ができて、狭い範囲でも、届く範囲の人たちに野菜を届けられれば、それが1番。

平)ありがとうございます。先ほど、マルシェのお話しが少しありましたが、今の販売方法のお話もお伺いできればと思います。

コ)今のメインは朝市だったり、マルシェだったり、「ポケットマルシェ」というECサイトに出していますね。あとは、僕が就農する前からお世話になってる八百屋さんがあるので、そこの八百屋さんに卸しています。昔は直売所とかにも出していましたが、今はなるべく対面で販売できる方法を増やしていけたらと思っています。

平)対面販売を選ぶのは、お客さんとのコミュニケーションが取れるから、なんでしょうか?

コ)良い悪いも、意見をもらえることはありがたいですね。やっぱり1人でやっているので、独りよがりになってしまう部分がどうしてもある。でも、何かしらの反応がもらえれば、「あ、こうしなきゃいけない」という気づきが生まれる。畑で1人だと、間違った方向に考えが固まっちゃう気がするのでできるだけ外に出るようにしています。
あとは、八百屋さんでもバイトをしています。農業とは別の現場のことを学ぶためですね。他の農家さんの野菜を知る、お客さんが選ぶ野菜を知る。そうやって、なるべく自分の考えだけで凝り固まらないようにしています。

これからのこと

自分で種を取って、種もある程度、自給できるようにしたい。越渕農園でしか買えない、つくれない野菜が出来たら面白いな。

平)今後どういう風になったらいいなみたいな展望、もしくは挑戦したいことはありますか?

コ)自家採取、種取りをしたいですね。F1種も良いものがあるので、必ずしも固定種の方が素晴らしいという意味では決してなくて。自分で種を取って、種もある程度、自給できるようにしたい。この場所で毎年毎年、種を繋げば、ここに適した種になっていきます。『越渕農園唯一の野菜』というと大袈裟かもしれませんが。憧れる部分がありますね。

平)人の名前が野菜の名前に入っていることもありますよね。「越渕○○」みたいに、オリジナルの名前がついた野菜ができるかもしれないですね!

コ)昔はそういった在来野菜の種を個々で持っていて、育てていたと思うんですよね。面白い野菜が多い。形もスーパーに並ぶ野菜と違うけど、なんか美味しい、みたいな。
この場所でしか買えない、つくれない野菜が出来たら良いですよね。なので、わざと交雑させてみるのも良いし。

コロンとしたフォルムが可愛い、コリンキー。雑草が強い日差しから守ってくれる。

平)農業の中で唯一無二なところって、やっぱり場所性。その土地で、できる人はその農家だけっていう風になると、1番のオリジナリティが生まれますよね。今までの5年間が、いろいろ模索しながらの地盤固め。次の5年がオリジナリティを出して、発展しながらより強固になる5年になるかもしれないですね!CSA LOOPでの活動はいかがでしょうか?出来たこと、出来なかったことなどはありますか?

コ)できるだけたくさんの種類の野菜を持っていき、メンバーさんに選んでもらえるように、というのは意識していました。その辺りは、おおむねクリア出来ていたかと思います。やっぱり、選んでいただけるようにすると、メンバーさんとの会話のきっかけにもなりますね。近隣の方がふらっと立ち寄ってくれたり、拠点のカフェの皆さんも野菜を買ってくれたりもしました。メンバーの方に助けられながら、続けられましたね。
出来なかったことだと、やはり畑での交流会でしょうか。可能であれば、収穫して、一緒にその場で食べられたらいいな、と。ただ、こういったことを企画したことがないので、なかなか段取りに手が回らずでした。その点は、今後うまく出来たらいいなと思っています。

平)他のCSA LOOPの農家さんも、畑に上手く来てもらう動線つくりといいますか、その辺りがなかなか上手く出来なかったとおっしゃっていますね。

コ)あとは、畑に来て手伝ってもらうとなると、やっぱり草取りがメインになってしまいます。もちろん、草取りしていただけたらすごく助かるのですが、せっかく畑に来てもらって草取りだけで終わってしまうのもな、と。

平)都会にお住まいの方だと、草取り自体も非日常ではあるので、思っているよりも楽しんでくれそうな気はしますよ!あとは、越渕さんが先ほどやりたいことで挙げていた、種取りをメンバーさんと一緒にするのも楽しそうです。普段私たちが目にする野菜のさらにその先、野菜の花や種ってなかなか見て、触れる機会がないので。

コ)楽しそうです!自家採取は、僕も勉強中なので一緒にやりながら模索するのも、それはそれで面白そうです。

平)CSA LOOPの期間は1年間という区切りがありますが、理想は何年も更新し続けていってもらえたらと思っています。そういう中で、越渕さんとメンバーさんで、種を繋いでいって土地に馴染んでいったら良いですよね。

種の話をする越渕さんは、とても楽しそう。種取り、ぜひ皆さんとしたいですね!

コ)例えば、種を持ち帰ってもらって、メンバーさんご自身で育ててもらう。そうしたら、ここ千葉県柏市と東京で育った野菜の違いも出てきて、新しい発見も出来そうです。
もちろん、僕の畑もどこかしら空きはあるので、メンバーさんと育てることも出来ます。一緒に実験する場になったら良いですね。

平)ご自分の家庭で育てつつ、じゃあ、越渕さんの作ったトマトと自分の家のトマトの味の違いはなんだろう、と考えていくのも面白いですね!

コ)そうですね!僕は野菜を届けていますが、CSA LOOPでは小さなコミュニティが出来たら良いな、と思っています。メンバーの方には、やってみたいことがあれば、僕のできることであれば応えたいし、使い倒すくらいの気持ちでなんでも言ってもらえたら。そういう関係性になれたら、嬉しいです!

8月のお野菜手帳は、『ナス』特集!

CSA LOOPの農家である越渕農園さんと楽菜ファームさんにご協力いただき、個性豊かな『ナス』を集めました!一口に『ナス』と言っても、その色・形、味も品種によってさまざま。毎週数種類ずつ紹介しているので、ぜひ合わせてお楽しみください!

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住所:

千葉県柏市