イベントレポート/LUSHの商品とコミュニケーションスタイルに学ぶ、巻き込み巻き込まれる人と地域

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1.2 mile community compostでは、第一線で活躍されながら環境や循環などの取り組みもおこなっている方々にお話を聞き、知見を広げるとともにわたしたちの次のアクションや価値観のきっかけになる機会を設けています。
ゲストの取り組んでいる製品づくりへの考え方やビジネス面との兼ね合いを紐解きながら、自分たちの生活に置き換えたときにどのように応用できるかを発見することを目的としています。

  • Photo:

    Yuri Utsunomiya

  • Text:

    Saki Sugaya

1.2 mile community compostでは、第一線で活躍されながら環境や循環などの取り組みもおこなっている方々にお話を聞き、知見を広げるとともにわたしたちの次のアクションや価値観のきっかけになる機会を設けています。

ゲストの取り組んでいる製品づくりへの考え方やビジネス面との兼ね合いを紐解きながら、自分たちの生活に置き換えたときにどのように応用できるかを発見することを目的としています。

今回は2期のメンバーである菅谷咲さんにレポートを寄稿いただきました。

菅谷咲
2期

1991年生まれ。茨城県出身。大学入学と同時に上京。卒業後はナチュラルコスメブランドへ就職。その後、化学調味料や保存料無添加の飲食業を経て、現在はオーガニックコスメブランドで働いている。また、週末には都内の高校のダンス部にて外部コーチを行なっている。

はじめに

世界中で支持されているイギリスのナチュラルコスメブランド「LUSH」。わたしたちが考える「ナチュラル」というイメージと固定概念とは裏腹に、色鮮やかな商品やワクワクするような店内が印象的です。

そこには「ナチュラルコスメブランド」の一つというより、LUSHさん単体での存在感が大きいようにも感じます。そんな強い個性を持ちつつ、世界中で多くの人に愛される理由はなんなのか?完璧に考え抜かれたPRやマーケティング戦略をもっているのか…?

同じ化粧品業界で働いているわたしは、LUSHさんの知名度を身にしみて感じています。今回はそんなLUSHさんの人気の理由を知りたい!とワクワクしながら参加させていただきました。

今回お話をしてくださったのは、ブランドコミュニケーションを担当され、同じく1.2 mile community compost 2期のメンバーでもある丸田千果さんと、コミュニティの拠点であるCOMMUNEと同じエリアに店舗を構える原宿店から鈴木真歩さん。会は、まず参加者全員の自己紹介からスタートしました。

それぞれの職業やコミュニティに参加したきっかけなどの会話から、少し緊張した空気が和らぎ、開放的な雰囲気になったところで千果さんのお話が始まりました。

「非上場企業」だからできること

LUSHさんは世界中に店舗をもつ大きな企業にも関わらず上場していません。そして、これからも上場しないだろうとも。それは同時に自分たちのビジネスに責任をもつということでもあるといいます。

「利益だけを追うのではなく、地域やコミュニティと一緒にポジティブな変化を生むビジネスをする。何より、自分たちがやりたいことをやる。」

例えば、LUSHさんのバスボムは包装をせず、商品が裸の状態で販売されています。いわゆるパッケージフリーと呼ばれる固形商品です。最近では日本でもやっと、「プラスチックフリー」、「脱プラ」という言葉がよく使われるようになりましたが、LUSHさんでは過去に失敗を経験しながらも、現在の裸の状態での販売方法を実現できているそうです。

それでも、『合成保存料やパッケージは、可能な限り使用せず、使用する場合も最小限にとどめます』という「ラッシュの信念」を貫き通し、ひとつひとつ壁を乗り越えながら現在でも変わらず、半数以上の商品をパッケージフリーでネイキッド販売されています。

自分たちのブランドが生み出す商品が与える社会や自然界への負荷をできる限り減らしたいという思いが強くあらわれている例だなと感じました。自分たちのビジネスに責任をもっているからこそ、利益を生むことだけではなく何のためのビジネスかを考え、非上場企業であり続けているのだと思います。

ラッシュジャパン合同会社 ブランドコミュニケーション マネージャー 丸田千果さん

地産地消、環境や社会を再生する資材調達

商品ができるまでのストーリーを聞いてまずわたしが驚いたことは、日本国内にキッチン(LUSHさんでは製造拠点のことをキッチンと呼んでいる)があり、国産の原材料を使った商品があるということです。そしてキッチンではシェフが野菜や果物を調理するように、商品へと仕上げていきます。社内でもシェフになることは誇らしく、シェフたちはプライドを持って日々製造をしているということでした。消費者としては小さなことかもしれませんが、こうした世界観もスタッフのモチベーションやブランドへのプライドへとつながっているのだと思います。働く人たちが生き生きとしていることもLUSHさんの魅力の一つです。

商品原材料の調達には、それを買うこと/使うことによって自然環境や地域社会を再生していく「Regenerative Buying – リジェネラティブバイイング」の取組みがあり、自然界の生態系を守る活動への貢献にもつながっているといいます。

今回は数多くある取り組みの中から一例として、『イヌワシペーパー』をご紹介してくださいました。

日本には、絶滅危惧種であるイヌワシという鳥が棲む「赤谷の森(群馬県みなかみ町)」という森林があります。そこではイヌワシが生息できる豊かな自然環境を維持するために定期的な間伐や皆伐が必要で、LUSHさんではその間伐した樹木から作られる木屑を購入し、それらを原料としてギフトペーパーを作っているといいます。

写真提供:ラッシュジャパン合同会社
写真提供:ラッシュジャパン合同会社

イヌワシペーパーについて詳しくはこちらをご覧ください。
イヌワシプロジェクト前編:イヌワシの狩り場を奪ったのは誰か
イヌワシプロジェクト後編:豊かな赤谷の森の象徴

間伐と絶滅に何の関係があるのかというと、上空から獲物を見つけ狩りをするイヌワシは、放置され広がった枝から伸びる葉によって視界が妨げられ、狩り場を確保できないために絶滅の危機に瀕しているということでした。

消費者はこうした状況を知り、消費者として商品を使うことで貢献をする。LUSHさんが伝え役となり、イヌワシとわたしたちをつなげていることに、ブランドとしてのコミュニケーションの深みも感じました。

地域で広がるコミュニティの輪

「利益だけを追うのではなく、地域やコミュニティと一緒にポジティブな変化を生むビジネスをする。自分たちがやりたいことをやる。」

この想いは、各店舗、そしてそこで働く従業員の意識にまで至り、社内に留まらないアクションを起こしているようです。

そのひとつとして、静岡店の事例を紹介してくださいました。LUSH 静岡店には地域との関わりを大切にし、ショップがある地元の商店街が100年先も選ばれ続けるように力を注いでいるショップマネージャーがいるといいます。古くから地域に根付いているお店がある商店街で、いつのまにか広報担当を務めるほど地域コミュニティと密に関わり、会社の活動と同じくらい一個人として精力的に取り組まれているのだそうです。そして、そのコミュニティは広がり、静岡市との連携で市内の小学校にて、LUSHのスタッフとしてプラごみ削減の取り組みについて授業を行うまでに繋がっていったのだとか。

「まちを良くしたい」、「自分たちは次世代に何を残せるのか、何を伝えられるのか」。従業員一人一人が信念をもち、よりよい方法を考えアクションを起こし、そしてコミュニティの輪はどんどん大きくなる。結果としてLUSHさんの取組みや環境問題への意識、自然環境保護・再生の大切さが多くの人へ広がっていっているのだと思いました。

印象的だったのは「人を通してLUSHというブランドを伝えたい。」という千果さんの言葉でした。

LUSHさんがイギリスの小さなファミリー企業から世界中に支持されるブランドへと成長したのは、広告やマーケティング戦略ではなく、一人一人がより周りを気にかけ、より良い社会や世界を望み、考え、行動し、周囲を巻き込むコミュニケーション、そして何より「身近にいる人を大切にする」ということでした。

お客様との信頼関係

話は、お客様とのコミュニケーションに。

魅力ある様々な取組みや環境問題への意識などをお客様へどのように伝えているのでしょうか?

原宿店の真歩さんが接客において大切にしていることは、その場のお客様との信頼関係を築くこと。一方的に伝えたいことを話すのではなく、まずお客様のお話を聞くことがとても大事だといいます。

LUSH 原宿店の鈴木真歩さん

会話の中でお客様の価値観やマインドを知ると、それぞれのお客様が欲しい情報をお伝えできたり、少し深いお話ができたりするそうです。

千果さん、真歩さんのお話を聞いていて、「みんなで環境問題に取組もう!」とか「生活の中でサスティナブルな選択をしよう!」といった堅苦しさはありません。常に自然体で、オープンマインドで「伝えなきゃ」というより「伝わればいいな。だってこんなにハッピーで楽しいんだよ?」というような気持ちが溢れているように感じました。

わたしたちは何ができるか

わたしたちのコミュニティではLFCコンポストを使って、メンバーが各家庭の生ごみを堆肥化し持ち寄り、活用方法のひとつとしてその堆肥で野菜や植物を育てています。

このコミュニティのメンバーだけでも、沢山の堆肥が出来上がります。この先、それぞれがコンポストを続けるためにも堆肥が活用されて循環できるコミュニティを作らなければならないと考えています。

実際に学校や公園の花壇に添え土として活用できないか、管理する方へアプローチもしていますが、安全性や品質が懸念され、なかなか受け入れてもらえない状況が続いています。

今回のイベントを通して、そもそも、「余っている、堆肥を使ってほしい」という考え方が良くないのではないかと感じました。

わたしたちが願うことは、「生ごみも大切な資源になるというこを知って欲しい」「生ごみから作られた堆肥を使って、循環するコミュニティをつくりたい」ということです。 活用してもらう役割だけをお願いするのではなく、「一緒にコンポストを始めてみませんか?」という切り口も良いかもしれません。

また、実例を交えてお話しすることで、コンポストへの理解や興味も深まるのではないでしょうか。

例えば、川崎市では家庭での生ごみ堆肥化を推進しており、使い切れない堆肥は無料で回収し、市内の花壇や農園で受け入れをする仕組みが始まりました。

渋谷区の加計塚小学校では、給食の残渣をコンポストボックスで堆肥化する取組みを行っているそうです。学校と協力する場合は、日本でも深刻な食品ロス問題や環境問題など、現代社会の授業の一環としても提案できると思います。その為にも、わたしたち自身、コンポストのメリットや堆肥に関する知識を深め、説得力のあるお話をする必要があります。

今後、堆肥の循環を通してお互いが助け合えるパートナーであるためにも一方的に「お願い」をするのではなく、もっと相手のことを知り、相手に寄り添って信頼関係を築くことを大切に、「一緒に創っていく」コミュニティを広げていきたいと思います。

今回のお二人の、LUSHというブランドや商品への愛があり、LUSHで働くことへ幸せを感じているからこそ伝わってくる楽しさやハッピーな空気感と同じように、わたしたちもコンポストや1.2 mile community compost のコミュニティへの愛をこうした活動を通して、内外に楽しく伝えられたらいいなと思っています。

LUSH
化粧品のための動物実験反対、パッケージフリー、100%ベジタリアン、リジェネラティブバイイングなど、地球をよりみずみずしく、豊かにするための取り組みを続けるイギリス生まれのナチュラルコスメブランド。コスメ市場におけるひとつの選択肢として多くの支持を得ています。
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