第4回共創会議を開催しました|CSAについて考える

feature

CSA LOOPは、地域支援型農業と食循環を掛け合わせた新たな仕組みです。生産者と都市の消費者を結び様々な方と一緒にまち全体でひとつの循環をつくっていきます。
農家と消費者がCSAの年間契約をおこない、年間を通して地域の拠点で対面で野菜の受け渡しをします。農家、拠点、消費者というように、人とのつながりを生み、関わり合う人が多いことが特徴です。
そのなかで、関わる人たちの相互理解をしていく場として「共創会議」と題してワークショップをおこなっています。

  • Photo:

    Yuri Utsunomiya

  • Text:

    Yuri Utsunomiya

第4回は「CSAについて一緒に考えよう」ということで、学生時代からCSAの研究をされ、現在も生産者と消費者をつなぐお仕事をされている石川凜さんと一緒に、そもそもCSAとはどんな考え方なのか、から日本や海外のCSAの事例も見ていきながら、課題感やそれに対する工夫などについて理解を深めていきました。そして、それを踏まえてCSA LOOPでは、そうした課題に対して、どんなふうに対峙していけるかについて議論しました。

石川 凜さん
京都大学在学中には米ケンタッキー州への農業留学などCSAの研究・実践をし、現在は生産者と消費者をつなぐプラットフォームであるポケットマルシェで活動する他、食と農についてみんなで一緒に考える勉強会「食と農のもやもやゼミ」を主宰するなど精力的に活動をしている。

https://note.com/_rin
https://twitter.com/rin_iskw

今回の会場は、ONIBUS COFFEE YAKUMO(目黒区4丁目)のスペースを使わせていただきました。

CSAについて知る

CSAとは<Community Supported Agriculture>の略語で、一般的に地域支援型農業、コミュニティ支援型農業と呼ばれます。その形態は様々ですが、消費者と農家が深く結びつき、農家は収穫物を、消費者は悪天候などによる不作のリスクを相互にシェアし、農家の営農を支えていく関係性のことを指します。

具体的には、消費者が特定の農家に対して半年間や年間分など一定期間分の代金を事前に支払い、年間を通してその収穫物を受け取ることで、農家は収穫前の段階から手元に資金を蓄えることができ不作のリスクにも対応しやすくなり、消費者も美味しいと感じ安心できるお野菜などを年間を通して確保していくことができるほかコミュニティに所属をすることによる横のつながりも生まれていきます。

(石川さん提供)

CSAの発祥については諸説あるものの、ある説では1973年の日本の産消(生産と消費)提携運動がはじめだとも言われています。その後スイスやドイツなどヨーロッパでも提携運動が発生し、アメリカなどでも広がりをみせていきました。ただ、実態としては、日本のこの運動が直接的に世界への広がりの要因になっているのかは定かではないということです。

CSAの取り組みと消費者が抱える課題

今では、日本は海外に比べCSAを取り入れている農家の数が少ないとも言われています。複数品目の野菜、単一品目(お米など)でおこなっているケースもあります。
実際に日本でCSAを取り入れている農園では、その経営の3割ほどの売上として、営農の主軸としているケースはまだ少ないという現状もあります。

石川さんの視点としては、「CSAがいいよね」と言われてるにもかかわらず、なぜ広がっていないのかというところだと言います。
その背景として、消費者側としては、受け取りにいくことや、ボリュームがあり様々な種類のお野菜を調理するためのアイデアやスキルが必要だったり、時間がかかるなど、ライフスタイルを変えていく必要があるという点が大きいと言われています。

また、アメリカでは、特に都市部でこの仕組に参加する消費者の属性として、高収入世帯や質の高い教育を受けてきたような方が多くなっている傾向にあり、低所得者層が手を出しにくい仕組みであることも指摘されていると言います。(そうした指摘に対しては、スライディングスケールと呼ばれる、会員ごとの所得に応じた金額設定で参加できると言う考え方もあります。)

そうした課題に対するアイデア

とはいえ、それぞれのケースを見ていくとそういった課題に対して様々な工夫が行われています。ニューヨークや神戸では地域のファーマーズマーケットを受け取り場所にしたり、職場CSAという形で勤務先で受け取りができたり、距離的なハードルを低くすることで継続しやすくするケースもあります。また、受け取る野菜に対するレシピをつけたり、受け取り時に交換ボックスがあり、好きなものと嫌いなものを交換できるという取り組みもあります。

この消費者と農家の負担の分配設定も絶妙に難しい部分です。例えば、野菜セットとしての満足度を高め消費者の継続率を下げないための工夫として、カスタマイズに対応すると言う方法がありますが、極端なケースとしては、中身の品目をある程度アラカルト的にカスタマイズできるようにすることで、野菜セットの中身について個別での対応が必要となり、野菜の梱包の手間が何倍にもかかり農家側の負担が大きくなってしまうこともあります。そうした双方の相互理解のもとに、バランスを保つということが、鍵になってきます。

ほかにも、物理的にその地域とは近くないけれど生産者を支えたいという方たちが、Facebookページなどでのコミュニティでコミュニケーションをとっていき、実際の生産物は配送で受け取りをするという取り組みも紹介されました。

生産者が抱える課題

農家が抱えるCSAの課題感としては、事務作業が煩雑になるということが挙げられます。マーケティング、顧客の管理、集金、提供分の収穫量の計算、コミュニティ形成、イベント運営など農家の作業が多くなりがちです。たとえば、お客さんを獲得するための広報作業から、実際に運用スタートする際には集金の手間や顧客管理の手間、そして、複数品目ある野菜それぞれの収穫量の管理(なすは◯個、ピーマンは◯個、など)など、これは受け渡しの場所が複数箇所あるほど、大変な作業になっていきます。

また、そうした労働コストに対して、収益性が見合っていないこともあり、やりたいこととやらなければいけないことのなかで、ジレンマを抱えるケースも少なくないということです。

受け渡しの数量管理をおこなうホワイトボード(石川さん提供)

そうした課題に対するアイデア

そうした課題に対しては、生産効率や作業効率を上げていくことも一つだと言います。例えば、ケンタッキー州のCSAのケースでは、400人の会員を抱え、工場のような設備で野菜の洗浄などの工程をおこなっていくことで効率を上げ収益性も高めるという体制もあるそうですが、会員の顔がわからないなどCSAの本質であるコミュニケーションが欠けてしまっているということもあるそうです。

また、作業量が多いことについては、それを外部化してすべてを農家がやらない体制にすることがひとつの解決策だと言います。職場CSAで輸送のコストを下げたり、収穫や梱包などを会員がおこなうことで省力化したり、農園内で担当を雇用し、部署化することで作業を集約したり、という方法で農園の負担の配分を下げていくことがCSA運営の継続への一歩になるということです。そして、梱包など、そもそもそれはやらなくてはいけないことなのか、を考えることも大事で、裸の状態で並べてピックアップしていくスタイルでおこなってるケースなど、CSAを通して、対消費者への農園側の準備を見直すいいきっかけになっていることも少なくないのです。

マーケット型CSA(石川さん提供)

課題に対する模範解答はない

石川さんによると、CSAを通して言えることは、あるコミュニティ(農家と消費者)での成功例がすべてのコミュニティでの成功例にはならないということで、それぞれが抱える課題についても、ある解決策がほかのコミュニティでは通用しないということもありえます。

だからこそひとつの課題に対して、いかに消費者も農家もどちらかに負担が大きく偏っていない状態で継続していけるか、裏を返せば、いかにその負担をお互いが負うことができるかが大事で、無理のない形で両者が関わっていける関係がCSAを継続していくためのひとつの鍵になると言います。

そのためには、農家のお困りごと、消費者のお困りごとを共有し議論し解決策を考えていける場として、また、その共有がしやすい空気を醸成するような各コミュニティ内部でのコミュニケーションが大切になるのではないでしょうか。それは農家と会員、会員同士、コミュニティごとに必要なコミュニケーションが異なり、それぞれ形作られる解決策が異なるので、その結果として続いていく体制、コミュニティとしての強さにつながってくるのです。