冨澤ファーム × Farm to Bakery|人と出会い、向き合う場所。渋谷で育むつながりときっかけ

feature

CSA LOOPは、地域支援型農業と食循環を掛け合わせた新たな仕組みです。生産者と都市の消費者を結び様々な方と一緒にまち全体でひとつの循環をつくっていきます。

農家と消費者がCSAの年間契約をおこない、年間を通して地域の拠点で対面で野菜の受け渡しをします。その際、家庭でコンポストした堆肥がある場合には、農家に預け、また資源として有効活用していくことも可能です。拠点では、野菜や堆肥の受け渡しがおこなわれ、直接のコミュニケーションを通して、当事者だけでなく地域コミュニティの広がりが生まれていきます。

各コミュニティごとで農家、拠点、消費者など、関わり合う人が相互を理解し、歩み寄りながら議論をしていくことで解決に近づいていける、優しく自律したコミュニティを目指しています。

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    Yuri Utsunomiya

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    Yuri Utsunomiya

今回は、新たに2022年2月からスタートするプランから、渋谷区エリアでの取り組みをご紹介します。

渋谷区は青山学院大学近くに店舗を構えるFarm to Bakeryの大越さん、三鷹市で農業を営む冨澤ファームの冨澤さんに対談形式でお話を伺いました。

人がつながり笑顔が生まれる

お二人は普段の活動の中で、どんなことを大事にされていますか?

大越:このお店はいろいろなご縁があって、2020年10月に青山でオープンしました。冨澤さんのお野菜も使わせていただいて、お野菜が主役のパンを提供しています。 自分自身は、両親が飲食店を営んでいたこともあり、それこそ生まれた時からずっと飲食に携わってきました。

そのなかで特に思うことは、巷にあふれている言葉ですが、結局は「人」なんだということです。大袈裟な例えかもしれませんが、パンは扱っているけれどパンを売っているわけではないということです。今思い返すと、和洋中様々な業態をやってきたけれど、心に残っていることとして、料理はあんまり出てこないんです(笑)「あのときにこんなことをお話した」みたいなお客様との会話とか、そのほうが覚えているんですよね。

Farm to Bakery 大越さん(Farm to Bakery 提供)

今回この場所が拠点として参加するときに、それがきっかけになってそれぞれが仲良くなって、畑に一緒に行ったり、飲みに行ったりもあるかもしれない。10年経ったら、ここのお店も変わっているだろうし、農業や野菜の事情も変わっているかもしれないけど、人のつながりは変わらず残ると思うんです。「どこで出会ったっけ?」「あのときは青山でパン屋やってたっけ?」ということはぼやけても、人とのつながりは残るんです。スーパーのレジも無人化になるなど効率が求められている世の中ですが、それを理解した上で、心の底から取り組む、言い換えれば、「ちゃんと人と対峙する」ということを大切にしています。だから、ベーカリーという業態ですが、お客様ともお互いお名前でコミュニケーションをとらせて頂いていますし、そのスタンスは外せないですね。

(Farm to Bakery 提供)

冨澤:私は三鷹市で農業をやっています。農業は自分にとっては目的ではなくて、人を笑顔にする手段なんです。農業の中でも、おいしいお野菜だったり農園で過ごした時間や会話、そういったことを通じて人を笑顔にするということを理念でも掲げています。

人の笑顔を見ると、多くの人は気分がいいじゃないですか。怒っている人と一緒にいたら自分もイライラするし、笑っている人と一緒にいると自分も居心地が良くて、わりと永く記憶にも残っていて。そういった機会を増やしたいと思っています。

(冨澤ファーム 提供)

いまは農家として農産物を作って売っています。もちろん暮らしがあるので僕の農産物を買ってくださるのは嬉しいですが、ただ物とお金が横に流れるだけというのはつまらなくて、野菜にプラスで僕のキャラを気に入ってくださる方々を増やしていきたいです。なので、人と人としてのお付き合いの中で買っていただけたら嬉しいですね。

そういう意味では、全員に好かれようとはせず、共感してくださる方に喜んでもらいたいと思っています。最終的な人生の目標は、死際に人生が楽しかったと思えるように生きていくことなので、理解ある方々と一緒に時を過ごしていきたいなと思っています。

未来にちょっといい手段

CSA LOOPに参加しようと決めたきっかけを教えてください。

今回の取り組みは、環境や循環を考えていけることは地球に生きる人間として、関わっていける機会としてきっかけがあるなら、やらない理由がないというのがひとつですね。これも結論は「人」です。コンポストも人間が物を食べるから何か要らないものが出たり、作らなければいけなかったりします。人間が生きていく中で大事なことと、これからの環境のことを考えることは素晴らしいことだと思いました。

僕が飲食店をやっているのは一つの手段で、就農するのも手段だと思います。そして幸い、なにかを新しくやろうとするときのリスクは、昔に比べてはるかに少なくなっています。実店舗を持たなくても商いができたり、沢山のお金を借入れしなくても開業ができたりします。畑がなくちゃ農業はできないけど(笑)

それをいろいろと細分化した時に、そのひとつとして環境や未来にいいことがあれば、みんなでやっていきたい「これから先のいい手段」なんだと考えています。

冨澤:もともと地域の廃棄物を畑で有効活用するということには関心があったということもあり、地域の落ち葉や馬糞を使った堆肥を活用しています。現在では東京の赤坂でも、そうした資源を堆肥として活用するための取り組みもおこなっています。生ごみは水分が多いのでそれを焼却するためのエネルギーを省略するだけでなく、焼却のための化石燃料の消耗も抑えて、畑での資源としても使っていくことができるので、社会や環境にとってもいいことだと思います。これは、大きな企業だけでなく農家でも、個人でも自分たちができることをやっていくという姿勢は大事だと思っています。

今回はそうしたことをコミュニティで取り組んでいくことになるだろうと思いますが、豊かなつながりの先にその輪が広がっていくということは非常に楽しみです。

(冨澤ファーム 提供)

些細なきっかけで人生を豊かに楽しく

メンバーさんとの関わり合いも広がっていくといいなというお話もありました。お二人はすでにお知り合いですが、コミュニティのなかでメンバーの方々とどんな関係性を築いていきたいですか?

大越:そうですね、最近コロナもあるなかで商売をやっていると、お客様との関係って、なんとなく一昔前とは少し違うなと感じます。 例えば、僕が今まで運営をさせて頂いた店舗がきっかけで結婚したカップルが、4組いるんです。いまだにお付き合いもあります。親子三代で来てくださっている家族もいます。お嬢さんが本当に小さな頃から通って下さり、いまや28歳になって国際結婚した、みたいなことも知っているという(笑)

きっかけはお店や料理とか、冨澤さんだったら畑やお野菜ということになるかもしれないですが、つまり「たまたまそれがきっかけだった」ということだと思うんです。みなさんも親友がいらっしゃると思いますが、それもたまたま親の都合で学校が一緒だった、とかきっかけは本当にたまたまだと思うんですよね。 それが最近は、外にあまり出なくなりましたし、みなさんイヤホンをしていたり、そのきっかけが生まれる状況に距離感があるというか。「一体この人たちは、他の人とどんなきっかけで知り合うのかな?」ということは思います。

それこそ、この一年半、飲食店でご飯を食べたりする機会が激減し、きっかけとの距離感が広がったと思います。 このコミュニティがきっかけで知り合って、その先その方々がどんな人生になるかはわからないですが、お店としては皆さんの様々なきっかけをお作り出来るということで、そこで出会った方々の人生がより豊かに、楽しいものになっていったらいいなというふうに思います。今回はそんなきっかけにもなったら嬉しいですね。

冨澤:普段は直売所も無人販売で、目の前のお客さんに笑顔で「ありがとうございました!」と言うような経験も少なく、飲食店の方ほどお客さんとの距離がそこまで近いわけではないで大越さんほどイメージが湧かないのですが、結論を言うと、一緒に笑えたらいいなと思います。

ただ、言えることは人との出会いで人生ががらっと変わることもあるということです。ここで知り合って、その方々の間で新たなステップになったり、もしかしたら、自分や大越さんも含めこれから素晴らしい出会いがあるかもしれないと思います。大越さんの話じゃないですが、関わった方々に「きっかけ」ができたらいいなと思っています。

お話を聞いていて根幹が似ているなと思うのですが、お二人の間でこういうお話をしたことはありますか?

冨澤:話をしたことはないですね。でもなんとなく、話さなくてもそんなタイプかなというか。大越さんの周辺の方々も似たような考え方の方が多くて、大越さんが畑に連れてきてくださる方々とも価値観が合ったりするので、まさに類は友を呼ぶんだなと。なので、根底の部分は似たような部分があるんじゃないかなという想像はしています。

大越:絶対、(冨澤さんは)ガンダム好きだよなとは思いますよね(笑)

冗談はさておき、なんとなく最近はフィーリングで合いそうだなというのがわかるようになりました。やっぱり合う方とは自然に深まっていきますし、合わない方とはそこまでにはならない、むしろ遠ざかっていくということなんだなと感じますね。

幸い良い出会いばかりですが、その部分の違和感やもやもやは大切にして、自分の行動に移したいなと思っています。冨澤さんとは、もちろんお金の取引もありますけど、全然そういう感じではないというか。 きっとコミュニティでも、いろいろな考えの方がいると思うので、そのなかでの化学反応含めて楽しんでいきたいですね。

(Farm to Bakery 提供)

関わる人たちが幸せに

この場所での出会いにはどんな広がりがありそうでしょうか?

大越:この地を拠点にしたのはたまたまですが、商売をする上では近隣の方々とのコミュニケーションやつながりがなければ商売できないと思うので、挨拶をしたり掃除をしたりは当然やることとして考えています。目の前の美容院の方がお客様を連れてきてくださったり、おかげさまですごく仲良くしていただいています。

ただ、それは青山でなくてもどこでもやるというのは肝に命じています。畑でも同じで、自分たちが使う野菜を知りたいからお邪魔させていただいていますが、畑でもいろいろな方とつなげてくださるので、貴重な機会だと感じています。

冨澤:僕の畑には、実際近隣の方々というよりも、価値観の近しい方々がよく来られます。ここで農業をする以上はもちろん地域に何かしらの貢献もしたいと考えています。地元にもまちぐるみのコミュニティはありますがいつも運営側なので、今回のコミュニティでは縁のある場所で似た価値観を軸に、関係性にもいろいろな矢印が生まれそうだなと。関わってくださる方が、幸せになってくれたら嬉しいですね。

最後に一言お願いします。

大越:冨澤さんのところともちょっと似ているのですが、企業理念が「すべてをみんなのハッピーへつなげよう」でして。この取り組みでいうと、つながる要素が循環や環境、人との出会いだと思います。間違いなく、僕たちはこの仕組みを通して、いろいろな方と出会う。

冨澤:大越さんの、いいですね。人を笑顔にするということは思っているんですけど、その先というか。

大越:ハッピーにすると言うのはおこがましいけど、その人たちのハッピーにつながったら、とは思いますね。

冨澤:とにかく、一緒に面白いことしましょう!楽しみましょう!

本当にそうですね。作業とか義務になると、その途端にできなくなりますからね(笑)家でコンポストをするにしても、意識だけではなく楽しんでいかないと続かないなと思います。土台の部分の美味しさとか楽しさがあれば、発展がありますし。

月1回はお野菜の受け渡しがあると思いますが、それがなくてもふらっとお店に寄ってくださるような、そんな関係っていいなと思います。

詳細情報/お申し込みは特設ページから受け付けております。
締め切り:2022/01/14 23:59まで

冨澤ファーム

住所:

東京都三鷹市